昭和大学精神医学講座 心理社会的治療研究会では、精神科リハビリテーションの一環として「心理教育プログラム」や「認知機能改善療法」などを実施し、その効果の検証や、内容の検討を繰り返し、現代社会における患者のニーズに沿ったリハビリテーションプログラムの開発等を行っています。その成果は、日本社会精神医学会、日本統合失調症研究会、日本精神科リハビリテーション学会、日本アルコール薬物医学会などで発表されています。研究助成を受けた研究も行っています。
Ⅰ.基本方針
- 常に質の高い精神科リハビリテーションを提供することを目指し、その発展に寄与するための、検討を重ねて行く。
- 多職種がチームとなって、現在の医療ニーズに沿った精神科リハビリテーションの発展を目指し、心理教育を中心とした介入を行う。
- 研究者と現場の医療者、地域の支援者の双方尊重し、対等な立場で、精神科リハビリテーションを活用した望ましい支援のあり方について検討していく。
- 様々な施設において実践されている支援方法の紹介や、海外で先進的に行われている治療法の 紹介などを通して、知識を深める場としても活用する。
Ⅱ.日時
原則として、毎月第3木曜日午後17時15分から19時まで
日程の変更等は、メールにてお知らせ致します。
Ⅲ.研究内容
1.統合失調症の認知機能研究
1)認知機能改善療法の実践と効果の検証
記憶や注意などの認知機能の改善を目的とした認知機能改善療法を実践し,その効果についての検証を行なっている。介入前後の神経心理学的検査得点に加えて,精神症状や社会機能,患者さん自身による自己評価なども用いて検討を行なっている。また,介入の効果については,実施前後においてfMRIを用いた評価を行い,認知機能改善療法の効果に関する生物学的なメカニズムについても検討を行なっている。
2)退院促進プログラム参加者に対する多面的な評価
生物学的指標に加えて,神経心理学的検査バッテリーを用いた認知機能の評価,服薬に対する態度や社会機能の程度などの心理社会的な評価を行うことで,各指標間の関連や,介入による変化の程度の査定を行なっている。また、心理教育プログラムの効果に,記憶や注意機能などの認知機能障害の改善が寄与することの実証を目的として,認知機能の改善と退院促進プログラムの組み合わせによる効果について検討を行なっている。
3)認知機能障害による周囲への影響に関する検討
認知機能障害を患者さんの身近な存在である家族との関係から捉える試みについても検討を行なっている。具体的には,患者さんの認知機能の程度と,家族の心理的負担や感情表出などのさまざまな反応との関連について検討を行い,将来的には患者さんの家族の方々に対しても有効な支援を提供できるような知見を見出していきたいと考えている。
2.物質使用障害と他の精神障害を併せ持つ患者への心理教育プログラムの研究
依存症治療のみでは回復困難な者について「物質使用障害(Substance use Disorder) 以下『SUD』」と「精神健康障害(Mental Health Disorder) 以下『MHD』」の双方を併せ持つ者という意味から「併存性障害(Concurrent Disorder)以下『CD』」という呼称が用いられ、様々なアセスメントや介入方法が検討されると共に、数多くの報告がなされている(カナダのCentre for Addiction and Mental Health 「CAMH」など)。こうしたCDへの治療法の一つとして、我が国の特徴を踏まえ、短期入院治療における心理教育プログラムの開発を行っている。生物学的指標に加えて、服薬に対する態度や社会機能の程度などの心理社会的な評価を行うことで、各指標間の関連や、介入による変化の程度の査定を行なっている。今後は、実証研究としての追跡調査なども検討している。
3.触法精神障害者の家族研究
精神障害者の精神症状が悪化し、暴力などの他害行為を引き起こした場合、家族は精神症状が悪化した患者さんに、どう対応したらよいかに苦慮するばかりでなく、他害行為の被害者になってしまう場合が少なくない。また、「被害者家族」であると同時に「加害者家族」になるという複雑な立場に置かれることも稀ではない。とりわけ「加害者家族」であると、社会からの非難の対象となりやすく、社会的孤立を余儀なくされることさえあり、最近ではこのような家族に対する支援の重要性が指摘されるようになった。ただし、具体的に望ましい支援体制は確立していないため、その構築を目指している。特に加害者である立場に着目して家族の心理的負担の実態や支援ニーズを把握し、主に他害行為の程度や家族関係などの側面から評価していく。
Ⅳ.現在行っているプログラムの概要
1)統合失調症心理教育プログラム
統合失調症患者を対象に、「再発のない安定した地域生活」を目指し、治療者と患者が共に治療とリハビリテーションに行っていくことを目的とした、心理教育プログラムである。入院治療の一環でありながら、再発予防も含めた地域生活に主眼を置いている点に特徴がある。1クール8回で講義30分、グループミーティング30分の計1時間を1コマとして毎週1回行う。講義は7職種が担当し、地域生活の安定化というテーマを元に、各職種の視点から一定の質が保証された情報の提供を講義形式で行う。その後、提供された情報の主体的理解のサポートと、患者間の相互作用の活性化を目的としたグループミーティングを行う。
2)認知機能改善療法プログラム
主には入院中の統合失調症の患者さんを対象に、約3ヶ月の期間において、マンツーマン形式の認知機能改善療法を実施している。約1時間のトレーニングを毎週実施することで、記憶や注意など、各認知機能の向上を目的としている。
3)併存性障害治療プログラム
併存性障害患者を対象に行っている。国立精神神経医療研究センターにて開発されたSerigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program(SMARPP)を改編し、「服薬の必要性と処方薬の自己管理」「地域生活シュミレーション」を組み込み、外部機関の「依存症回復支援施設からのメッセージ」を「ボランティア」という形式で導入した。その他、Small Group Meeting(SGM)、Social Skills Training(SST)を含めた計4パターンの種目をワンパッケージとし、全8回のオリジナルな精神科亜急性期入院治療における心理教育プログラムとして作成されている。各職種による動機づけ面接や、作業療法などを組み合わせて治療プラグラムとしている。
Ⅴ.現在助成金を受けて行っている研究テーマ
- 認知機能の改善による退院促進プログラムの効果の検討
統合失調症研究会 第6回 研究助成 2010年 - 認知機能の改善による退院促進プログラムの効果の検討
科学研究費補助金 基盤研究(C) 2011年~2015年 - 統合失調症を対象とした認知機能改善療法の生物学的作用機序の解明
科学研究費補助金 若手研究(B) 2012年~2016年 - 触法精神障害者家族に対する支援体制の確立に向けた基礎的研究
科学研究費補助金 基盤研究(C) 2012年~2016年