認知症研究会について
認知症研究会は昭和大学精神神経科学教室の研究会の一つですが,他の研究会とは異なり昭和大学横浜市北病院メンタルケアセンター内で発展した研究会です。昭和大学横浜市北病院メンタルケアセンター内で,2010年秋頃から,昭和大学横浜地区にある昭和大学横浜市北部病院および昭和大学藤が丘病院の若手の先生方に,認知症関係のことで学位論文を取得してもらい,その後も,継続的に認知症関係の研究を行ってもらう場を提供することを目的として,自然発生的に誕生した会です。2011年度から定期的に研究会を開催し,2012年度からに新しく昭和大学精神神経科学教室の研究会の一つとして承認していただきました。現在は昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンター内で,2ヶ月に一回奇数月の第二月曜日の午後7時半頃から,昭和大学横浜市北部病院にて行っています。
研究科の名称は“Wade 研究会”としています。“Wade”は,Showa Universityのwaとdementiaのdeを合成したもので,“wade”とは水の中を歩いてわたる,歩いて進むという意味があり,転じて困難な中を着実に前進することを意味します。この時代に,ふさわしいと感じています。地道に,少しずつ認知症の分野の探求を行ってゆきたいと考えています。
主な研究テーマ
主な研究テーマ2本あります。
(1)血清抗コリン活性(serum anticholinergic activity,SAA)を抗コリン(AA)の負荷の指標として用い,抗コリンがアルツハイマー病において,内因性に出現し,アルツハイマーの病理を促進するとする仮説の下(Konishi K, et al. Psychogeriatrics, 2010. Hori K, et al. Neuropsychobiology, 2011. 堀宏治ら,神経精神薬理,2011.Hori K, et al. J Autacoids, 2012. Konishi K, et al)血清抗コリン活性をアルツハイマー病の急速進展の生物学的指標とすべく努力しています。血清抗コリン活性は従来,抗コリン活性を持つ薬剤ないし多剤投与により生じるとされ,特に,認知症高齢者の記憶を中心とした認知機能や幻覚,妄想,日内リズム障害を引き起こすとされていました。また,炎症性疾患において薬剤とは関係なく内因性に生じることこともあるとされていました。我々のグループは上記論文を通して,抗コリン活性がアルツハイマー病において内因性に生じる可能性を世界で初めて,報告しました。今後,アルツハイマー病の症例の血清抗コリン活性を定期的に追跡し,ある時点で認知症の急速進行とともに,血清抗コリン活性が陽性になること,抗コリン活性を抗認知症薬が消失させることなどを研究しています。これは,世界に類を見ない画期的な研究になると考えられます。一部は論文化ないし学会発表に至っており,今後,長期に研究を継続させることにより,上記目標を達成してゆく所存です。
また,抗コリン活性が他の精神疾患の急性憎悪,双極性障害の躁転などを誘発するとする可能性もあります(Hori K, et al. J Autacoids, 2012. Psychogeriatrics, 2012,in press)。このため,統合失調症の臨床症状との血清抗コリン活性との関連性を見出す研究も行っています。今後,血清抗コリン活性を他の疾患にも応用,拡大させてゆく予定です。なお,現在は血清抗コリン活性を三菱化学メディエンスに外注,測定していますが,所属メンバーによる研究室内での測定技術の確立も目指しています。これにより,他の研究室(他大学)との共同研究も行う予定です。現在は,東京女子医科大学精神科,順天堂大学麻酔科との共同研究も予定しています。
(2)過去,我々はアルツハイマー病の行動心理学的症候(BPSD,行動症状,精神症状,問題行動)の中でも,幻覚,妄想,攻撃性が加齢や病状の進展の影響を受けて,不安,感情障害と結びつくことを報告しました(Konishi K, et al. Psychogeriatrics, 2009. Hori K, et al. J Addict Res Ther, 2012)。このことから,BPSD(またはその一部)がbipolarity(双極性傾向)と関係していると考え,BPSDとbipolarityとの関係,介護者の介護負担感とbipolarityの関係,BPSDに対する薬物療法として双極性障害の増強療法の応用の可能性を研究しています。一部は論文化ないし学会発表に至っており,今後,長期に研究を継続させることにより,こうしたことを明らかにしてゆく所存です。
また,Wade研究会と平行して,昭和大学横浜市北部病院と昭和大学藤が丘病院の合同症例検討会(北の藤会)を2011年度から,2ヶ月に一回偶数月の,第二月曜日の午後7時半頃から,昭和大学横浜市北部病院にて行っています。こうした中から,特に認知症とはこだわらず,将来の研究テーマを探してゆくことを目標にしています。
研究会員募集
学位を取得したいけど当てがない方,認知症のことをもっと学びたい方など,職種は問いません。両研究会の参加をお待ちしています。
2012年9月現在の研究会員を構成する昭和大学精神神経学教室内の主な構成メンバーは以下の通りです(順不同,敬称略)。
昭和大学附属烏山病院:谷 将之,明石憲尚
昭和大学横浜市北部病院:堀 宏治,富岡 大,秋田 亮,横山佐知子,押尾朋範,東 一成,幾瀬大輔,小西公子
昭和大学藤が丘病院:峯岸玄心,田中宏明
昭和大学薬学部臨床精神薬理学講座:蜂須 貢
しかし,昭和大学精神神経学教室内に限らず,看護師,臨床心理士,心理学学生なども参加しています。
堀 宏治
参考論文
追伸として,本研究会の研究テーマの基礎となった上記論文の中から,5論文を添付いたします。ご興味のある方は是非ご覧ください。なお,“Hori K, et al. Neuropsychobiology, 2011”の論文は“Neuropsychobiology”誌の中で2011年3月のAccessが最上になり,“Psychoabstract”(近着海外誌から選んだ精神医学情報アブストラクト)に日本人として最初に選出されました。さらに,“Konishi K, et al. Psychogeriatrics, 2010”“Hori K, et al. Neuropsychobiology, 2011”はそれぞれ,米国の医学系論文を講評する“Mental health Weekly Digest(July 26, 2010)”および“Biotech Week(April 13, 2011)”に取り上げられました。